小学生~

 学校に通い、本格的に学習活動に参加します。友だちとの付きあいがますます重要な意味を持つようになり、仲良しもできます。低学年のうちはまだ幼児期のおもかげを残していますが、高学年になると、思春期に近づいたという気配を感じさせるようになります。

 最近、小学生などの大きいお子さんの相談が増えています。大きくなるに従って甘え下手は板に付いていますから、家でお母さん一人ではなかなか取り組めなくなっておられます。乱暴が出ている時はほんとにどうにもならなくなっておられます。そんなようすが家の中だけの場合はまだなんとか過ごされていますが、外でのトラブルも出てくると、お母さんはほんとに困って途方に暮れておられます。

 小学生になってもやはり、甘え下手のお子さんが甘え上手に、甘えさせ下手のお母さんが甘えさせ上手になるようことを基本にお手伝いするのですが、甘え下手になっている大きいお子さんは、まず怒りから受けとめなくてはならないので、そして受けとめていくと、気持ちのブレーキの悪態もすごいですから、お母さんは怯みがちになります。そんなお母さんを支えて、最初は援助者が受けとめていきます。怒りが治まってきたときにお母さんの抱っこにすると、お子さんは本来のお子さんの素顔を見せてくれて、ちょっぴり甘え上手になっています。そんなときお母さんも,日頃のもう!いい加減にして!というイライラや,憎らしいとも感じる気持ちは静まって、お子さんをかわいいと抱きしめてくださいます。

 怒りというのは,悲しいとか寂しいとか苦しいとか・・・の気持ちがたまってしまって、一気に噴き出すときなんですよね。よくダムが決壊するときのようだと説明するのですが、決壊するときのエネルギーが怒りで,あふれ出る水はそれらの感情なんですよね。ですから怒りとなって溢れてきた水の正体の気持ちを知り、その気持ちをよしよしできれば、決壊するまでたまらずにいられるようになるのですね。怒りに付き合うときにも、どんな気持ちがあるのかなって感じようとしていると、伝わってきたりします。その時には涙に変わっていくのですね。

「宝物ふえた」-咳払い
【甘え下手の出発点】
【ママばっかりずるい】
【ただぎゅっと抱きしめてほしい】
【お互い様】
【お母さんは負けないぞー】
【反抗的でいばった口をきく小3の娘】
【頑張っているけれど】
【大変と感じないで頑張る】
【大きいお子さんとのやりとり】
【「痛い」と言って甘えたい】
【怒りの気持ち】
【ちょこっと抱っこ】

「宝物ふえた」-咳払い

 今回もまた、我が子とは思えないほどのTのやさしさにびっくり驚かされました。また、何となく、もしかして…と思っていたTの咳払い。やっぱり思うことが言えずにつまっている咳だったことがわかり、体の反応のすごさをつくづく感じています。思い返すとこれまでもずっとTのサインは「のど」だったかもしれません。今回発見できて良かったです。
 それから…私すごい発見をしました。あれから少し考えていて…Bちゃんのイライラをぶつけられて悲しい、やだなあと思うTの気持ちもわかるけど、これから先も長いつきあいになるご近所のお嬢さんだから、うまくお友達としてやっていかないといけないと気ばかり遣って、TよりBちゃん…そう、それって、母が私より別の子…そう、そうだ!って気づいたんです。だからBちゃんがイライラあたっているのを聞いていると切なくなる…Bちゃんのイライラする気持ちも聞いてあげたいけど、それよりTの「くやしいよ?、かなしいよ?」という思いを、まず先に聞いてあげたかったんだよね、って。ちょっとスッキリ!!この次はTの気持ちに寄り添いたいなあ…。
 この土日でTはインフルエンザにかかり、今週はずっと学校をお休みしているので、Bちゃんには会っていないのです。この次は今までとはちょっと違う対応ができるかな。
 こうして落ち着いて気持ちに寄り添えば、いろいろな事が見えてくるのにだめですね。やっぱり私がよしよししてもらって、Tに助けてもらうばかり…もしかして、私が苦しそうに見えて、Aさんのところに行こうと思ったのかしら…学校のお友達とも仲間に入れず、ひとりで過ごすようになったのも、TVの戦いものや、ゲームに限らず、私が厳しく育てて来てしまったことでもあるのに、Tはいやだと感じていなかったり、逆に育ててくれてありがとうなんて(注:手紙に書いてくれた)…また宝物も増えました。Tからの手紙、大切にしなくちゃ。
 今回うかがって、わたしはもちろん楽になりましたし、Tはまたひとつたくましくなったように思います。 和く輪く舎との出会い、Aさんとの出会いに感謝!感謝です!もし出会えなかったら…考えただけでも怖い?…今の私たちはなかったです。本当にありがとうございました。Tも書いていましたが、またうかがわせて下さい。よろしくお願いします。

【甘え下手の出発点】

 小学2年生のAちゃん。学校で落ち着かないし、授業中でも外に出て行ってしまったり、友だちとの関わりもうまくいきません。お話を伺っていくと、赤ちゃんの頃は手がかからなかったお子さんで、3歳頃から落ち着かなくなり、ママの言うことも聞かなくなって、ママは日々か大変で、今に至ったと言います。

 こんな様子は甘え下手さんなんですよね、とママにお話しして、Aちゃんの甘え上手を取り戻すことになりました。そんな時援助者は、子どもの親思いを念頭にして、ママが困るから一人で頑張ろうとしたのはいつからなんだろうと、生育歴を探っていくこともしています。過去に何かがあったから苦しい、そのことを慰めて~ということももちろんありますが、その何かをきっかけに甘え下手になったかの方か大事なのですね。甘え下手になると言うことは、ママとの気持ちが通いにくくなることなので、お互いさみしさも抱えていくことになるのですからね。お互いの大好きが届きにくくなることなのですからね。

 Aちゃんの甘え下手の出発点は、生まれたすぐ後にありました。ママの実家で出産を迎え、1か月は滞在していたのですが、その間、泣くとママの兄弟にせめられて、それをおばあちゃんも見て見ぬふり。ママは泣かせないように泣かせないように気をつかっていたそうです。直にAちゃんは泣かない赤ちゃんになり、ママは助かったのだそうです。

 子どもはとても親思いですから、泣くとママが困れば泣かないようになるのですよね。でもそこから気持ちを一人で抱えて頑張ることにもなるのですよね。Aちゃんの甘え下手さんの始まりは、実家での1ヶ月にあったようでした。

 ママはそんな心のカラクリは知らなかったのですから、ママが責められることではないのですが、結局はいつかママが向き合うことになるのですよね。Aちゃんの甘え下手の構えはそれからどんどん身につき、3歳の頃からママを困らせるような様子を見せ、もう一人ではがんばれないよ~というサインを出していたのだそうです。3歳の頃、ママは日々困りながらもなんとか過ごしてきたけれど、2年生になった今、もうどうしていいか分からなくなり相談に来られたといます。

 Aちゃんの甘え上手は、相談に通われている内に少しずつ取り戻していき、学校での様子もずいぶんよくなっています。それでも小2になっているAちゃんの一人で頑張る構えはかなり強固で、ほんとに少しずつになっています。3歳の頃に来ていたげていたら、もっと早く取り戻せたのに~というのは、援助者の欲張りですね。Aちゃんは今がその時、できるだけの応援をしているところです。

【ママばっかりずるい】

 ママが幼いときから引きずってきた気持ちが、子育てをやりにくくしていて、子どもに八つ当たりになってしまっていた7歳のGゃんママ。やっと少しママの自分育てが進んで、いよいよGちゃんの番が来ました。

 「Gちゃん、今までありがとう。お待たせ~」と始まった癒しの抱っこなのですが、Gちゃんの甘え下手さんはすっかり身についてしまっていて、そうすぐには気持ちを表現できません。ママの抱っこだとなおさら、甘え下手・甘えさせ下手のはターンにはまってしまって、気持ちを紛らすばかりでした。

 そこで援助者が抱っこを代わったのですが、それでも気持ちの我慢が強かったのですが、「ママばっかりずるい!」の言葉かけで、一気に気持ちがあふれてきてかわいく泣けました。そうだね、ママの気持ちを聞くだけだったGちゃんですから、「ママばっかりずるい」が一番に伝えたい気持ちだったのでしょうね。ママはごめんねの気持ちが大きかったのに、Gちゃんのそんな訴えに、ほろっとしてGちゃんを抱きしめて、そこで一気にママとGちゃんの気持ちが一つになっていました。そばにいた援助者もあったかい気持ちになりました。Gちゃんこれからいっぱい甘えてね。

【ただぎゅっと抱きしめてほしい】

 小学校2年生のAちゃんが、学校に線引きを持って行っているのに、ノートの線は手書きでひょろひょろ。お母さんが不思議に思って、線引きを使わないわけを聞くと、隣のお友達が貸してというので、貸してあげているから、という返事。Yちゃんらしいと思いながらも、気になったお母さんでした。

 その後の授業参観のときに、その現場に居合わせたお母さん。そのお友達のところまで行って、「Yちゃんが線引きを使うときには返してね」と話して、返してもらいました。それからYちゃんは、線引きを貸してといわなくなったそうです。それでお母さんは安心したけれど、もっといい解決法があったのではと、ちょっと心に引っかかっていたそうです。

 Yちゃんが5年生になったとき、いじめに遭っていたことを、お母さんはずっと後から知ることになりました。Yちゃんに「どうしてお母さんに言ってくれなかったの?」と訊くと、「だってお母さんに言うと、学校に言いに来てしまうんだもの!」という返事でした。

 だいぶ前の新聞の記事ですが、読んでいただいたら、「あ、そうだ」と気づいてくださいました。

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「ぎゅっと抱きしめて」

 地方から東京に引っ越してきたのは、娘が小学五年生の夏でした。おとなしい子なので予感はありましたが、まさに的中しました。

 毎日沈み込んで帰宅し、学習レベルの違い、クラスメートのきれいな標準語や、ドライなものの考え方についていけない自分のことを、涙目で報告するのでした。私は娘の一大事とばかり、悩みを追求し、対策を立ててアドバイスしました。

 するとそのうち、娘の口数が少なくなったのです。ほとんど私に報告しなくなりました。「どうしたの。もう学校では嫌なことはないの」「ううん、あるけど」「じゃあ、どうして話してくれないの」「お母さんに打ち明けると、うるさいから。あんまり言いたくなくなった」「お母さんはあなたが心配なの。どうしたらいいか、一緒に悩んで考えてあげたかった。それが嫌なら、お母さんはどうすればいいの」「……お母さんは話を聞いたら、ただ黙って私を抱きしめてほしい」

   それから何回、娘を抱きしめたことでしょう。何も言わず、一抹の寂しさは胸におさめて、ぎゅっと赤ちゃんのように。半年ほどもたったでしょうか。気づくと、娘は元気に学校に通い始めました。

 この春から、娘は中学生です。自分の世界がますます広がっていくことでしょう。土足で踏み込むことなく、これからも彼女を見守っていきたいと思います。

 卒業式の日、クラスメートと泣き笑いしている娘を見つめながら、子供から学ぶことはいくらでもあるものだなあとしみじみ思ったことでした。ありがとう。

                 (1999年3月29日 朝日新聞ひととき欄より)

【お互い様】

 ハンディのある青年とお付き合いしたときのことです。その青年は言葉でのコミュニケーションは、日常生活を送ることではなんとかなっているとのことですが、気持ちの表現は言葉では難しいようでした。そんな時、筆談で気持ちを表現してもらいます。

 あれこれと気持ちを書いて、最後に「面倒を見てもらうばかり。自分も役立つ人間でありたい」と表現し、胸を打たれました。ハンディのあるお子さんは、ハンディがあるだけに、どうしても親や周りの人に助けてもらいながらになり、受け身のことが多いのですよね。そんな自分を「こんなに迷惑をかける自分」は、「居なければよかった」「生まれてこなければよかった」と、存在自体を否定しがちで、「存在することだけで価値がある」「ありのままの自分でいいんだ」と、肯定感を持つことがとても難しいのです。心のケア(抱っこ)のセッションを続けてきて、この青年はやっと少しずつ肯定感も持てるようになっていました。それだからこそ、「自分も役に立つ人間でありたい」と思うようになってくれたのでしょう。

 生きていくのには、ハンディかあろうとなかろうと、みんなみんな支え合い助け合い、お互い迷惑もかけているものと思うので、その筆談で会話をを受けて、援助者が「お互い様だね」と声をかけると、「え?」とびっくりした表情になりました。お互い様なんて思ったことなかったようでした。それから少しお互い様について気持ちを聞き、話をした後、青年はちょっとほっとしてくれました。その青年がお互い様で助け合いつつ、「人のために役立っている」と実感できる援助を、これからできたらと思います。

【お母さんは負けないぞー】

 4年生のTちゃんが、全然言うことを聞かないでイライラさせるので、お母さんは怒ってばかり。Tちゃんも負けずに言い返すので、口ゲンカになります。口ゲンカになるとTちゃんの方が達者なので、悪態を並べます。「お母さんなんか大嫌い!顔も見たくない」「お父さんがいればいいからお母さんなんか出ていけ!」「お母さんが出ていかないなら、私がこの家出で行く」「ああ、こんなお母さんで私は不幸だ!」「生きているのもイヤになる」などと言われ・・・そして最後には「死んでやる!」「殺してやる!」まで言われると、言葉を真に受けないで気持ちを聞くと思っても、お母さんの否定感に響いてひどく落ち込んでしまうので、付き合えなくなってしまうのだそうです。

 相談室に来たTちゃんは、「友だちと遊びたかったのに!」とふくれっ面。援助者がまずお母さんの気持ちを聞くと、傍でぼそぼそと文句を言っていたTちゃんでした。時折その文句にお母さんが言い返していましたが、援助者が間に入り、ふたりの気持ちをそれぞれ話してもらいました。

 その後、お母さんにTちゃんを抱っこして「かわいいかわいいしてもらおう」というと、すぐTちゃんは「イヤだ!お母さんに抱っこなんてしない」と突っ張って、膝を抱えるようにしている腕に顔を埋めてしまいました。そこでお母さん、その腕を引っ張りました。するとそのままの姿勢でズルズルとお母さんの方に引っ張られて、お母さんにくっつきそうなところまで来ました。お母さんがもっと引っ張って抱っこしようとしたら、Tちゃんはさっと逃げて、離れたところまで行ってまたうずくまりました。それが帰り口の反対の方に行ったので、Tちゃんの「イヤと言うけどイヤじゃないよ」という気持ちが伝わってきました。

 援助者が迎えに行って背中に手を当てると、その手に突っ張ってきたため、そのままお母さんの方に押される形になりました。ススーッとTちゃんは押されて滑るように動き、それに意外性があり笑ってしまったTちゃんでした。お母さんの前まで来ると、また逃げようとします。ここからはお母さんの出番。逃れようとするTちゃんをお母さんがガシッと捕まえて、取っ組み合いになりました。Tちゃんは最初は「放せ」「やめてよ」「気持ち悪い」「くさい」などといいながらでしたが、「お母さんは強いんだぞ~」とばかりにお母さんが怯みませんでした。まさしく5分5分の張り合いの感じでした。そのうちお母さんもTちゃんも笑いながらの楽しいやりとりになっていました。

 年齢が大きくなると、最初のうちは腕の中で弛緩して抱かれるまでは行かないことが多いので、終わりの頃合いをみていると、お母さんがちょっと力を拭いたところで、Tちゃんは逃げました。そしていかにも勝ったように喜んでいました。お母さんもハーハー言ってもう限界のようで、そこで終わりとなりました。お母さんに真っ直ぐに向き合ってもらって、Tちゃんは「こんなとこもう絶対来ない!」と言っていながらも、満足そうでした。そし次の予約を気にしていて、予約が決まると「もう来ないよ~」「また来てね」の援助者とのやりとりになって、最後には「来てね」にうっかり「うん」とうんとうなずくのでした。

 帰ってからのTちゃんは、今までよりは素直に気持ちを伝えるようになったそうです。でも突っ張りには何年分もの年季が入っているので、突っ張らなくてすむようになるまで応援するね。

【反抗的でいばった口をきく小3の娘】

 夫婦仲がしっくりしない両親の間で悩んでいた小学3年生の女の子。お母さんにちょっと反抗的で、いばった口をきいていました。何回めかの相談のときにお母さんが、「自己否定感が強いために夫にも娘にも言いたいことが言えない」という悩みを話してくださいました。

 そこで、まず女性のスタッフに、お母さんを相手に、「こっちへおいで」とそっと手を引いてもらう体験をしていただきました。そのとき、お母さんは「寂しかった」と涙を流したのです。お母さん自身のつらい幼児体験に触れることができたようでした。

 すると、普段は強がっていた女の子が、この日は素直に「元気のないママが心配」と言って泣くので、スタッフと母子3人で、「ママは強いんだぞ」ごっこをして遊びました。取っ組み合って、かわりばんこに足を掛けて押し倒すという、勝っても負けても楽しい遊びです。スタッフを相手にした練習でパワーを増したお母さんは、いよいよ娘と2人で対決。女の子は少し手加減しながらお母さんを勝たせて、とてもうれしそうでした。

【頑張っているけれど】

 小1になったRちゃん、少し表現が苦手でコミュニケーションがスムーズにいきません。それでも学校は休まずに行き、緊張しながらも頑張っています。その頑張りもわかっているお母さんですが、友だちとうまく付きあえないことが心配でした。

 幼稚園の頃は1人2人遊べる友だちもいたけれど、小学校になったら友だちたちはグループもできていて、なかなか仲間に入れないようです。友だちとは遊ばす、先生のところにしつっこく行くし、弱い子には威張ったりするが気になって、このままでいいのかと不安になり、帰り道や家に着いてから怒ってしまうといいます。友だちと遊んでもらえないけど大丈夫なんでしょうか?と、援助者に切ない気持ちを訴えられました。

 Rちゃんは、遊びたいのに遊べないのはつらいでしょう。けっして平気じゃないね。でも平気なふりしたり、先生のところに行って気持ちをなんとかしているし、世の中でのRちゃんの社交術で、よくやっていると思いますよ。

 援助者がそんな話しをすると、お母さんはRちゃんのそんな頑張りがよくわかっていて、でも心配でたまらなかったので、涙を流されていました。お母さんの切ない気持ちに寄り添いながら、Rちゃんの力を信じて、ストレス発散を手伝ったり、エネルギーをあげたりすることしかないと伝えると、「そうですね。私が支えなければなりませんね」と、しゃきっとされました。

 それではRちゃんの身になって体験してみましょう。前に歩くのを腰でブレーキして、どれくらい力が入るかのバロメーターにしました。それから、お母さんをおばあちゃん役の援助者がハグして、「かわいい」「大好き」「大事」を耳元でささやきました。その後で、再びバロメーターをしてみると、ずっと力強く前に進めて、お母さんは不思議がっておられました。

 次はRちゃんの番。お母さんにに抱きしめてもらい、「かわいい」「大好き」「大事」と心をこめて言ってもらいました。するとRちゃんはその気持ちを素直には受け取れないようで、もがき出したので援助者が代わって抱っこし、ひとしきりもがきを受けとめました。そしてお母さんの抱っこに戻ったら、文句がいっぱい出てきました。言葉で文句をいっぱい、そして押したり叩こうとしたり、お母さんはそれをひるまずに受けとめておられました。その後では、「かわいい」も「大好き」も「大事も」受け取って、しっくり抱かれて嬉しそうでした。エネルギーの補給とストレスの発散とができた抱っこでした。

☆Rちゃんなりに頑張っていることをわかっていてあげること
☆体のやりとりで発散を助けてあげること
☆エネルギーを補給するぎゅっ!をすること
の3つが支えになりますね、と確認しました。

 お母さんは一回り頼もしくなって、「Rちゃんは今のままでいいよ。よくやっているよ」と、心から言えて終わりました。Rちゃんも一段とかっこいいお兄さん顔になって帰りました。

【大変と感じないで頑張る】

 2年生のOちゃんが、最近何かで怒られた時に、「生きていてもしょうがない」というようになったと、心配して連れて来られました。久しぶりの来室です。

 Oちゃんは幼い頃からずっと、お母さんが大変な状況にいたので、いつも明るく振る舞って、お母さんを元気づけてきました。少し前にはお母さんが体調を崩して寝込んでしまい,その時は下の子の面倒を見てくれたし、お母さんのことをとっても気づかってくれたそうです。でも、お母さんが良くなってきたら,とてもハイになって,それでお母さんに怒られる事も増えたのだそうです。下の子にも意地悪したりケンカばかりしたりもするのだそうです。そんなOちゃんを見ていると,我慢させているのではと心配になってしまうとお母さん。

 お母さんにOちゃんを抱っこしてもらいましたが、ピッタリ抱かれないし、お母さんが日常のいろいろを慰めようとしましたが、平気な顔をしていて気持ちは動きませんでした。そこで援助者に代わって、

援助者「大変だね」
Oちゃん「うん」
援助者「大変だけど大変と言わずに頑張ってきたんだね」
Oちゃん「・・・(もじもじ)」
援助者「大変だけど大変と思わないようにして来たんだね」
Oちゃん「うえ~ん!」
援助者「大変と思わないように明るくして,お母さんを元気づけていてくれたんだね」

 Oちゃんはそれからひとしきり大泣きしました。お母さんはOちゃんがそんなにお母さんを心配していたことを知って、涙していました。そして「お母さん大丈夫だから,心配しなくていいよ。我慢しないでね」とOちゃんに伝えていました。でもOちゃんはちょっと困ったような表情をしてそっぽを向いていました。そこで援助者が,「心配してくれてありがとうの方が、Oちゃんはうれしいと思うよ」というと、お母さんは「ありがとう」と伝え、そこでOちゃんはちょっと力が抜けました。そしてお母さんの抱っこに替わると、最初よりずっとピッタリ抱っこになっていました。お母さんとOちゃんと、大好き同士の心配で悪循環になっていたのですね。

 出会うお母さんたちの中には、幼い頃を振り返って、親はかわいがってくれたし大事に育ててもらったのに,なんでこんなに苦しいんだろう,という方がけっこういらっしゃいます。きっとOちゃん親子のように、大好きだからこそ一人で頑張るになっていたのでしょうね。Oちゃん親子はここからまた,親子なんだからなんでも言い合えるようになってほしいので、応援していきます。

【大きいお子さんとのやりとり】

 あるお母さんからステキな報告が届きましたのでご紹介しますね。こんなやりとりを日常にできると,お母さんが受けとめていけるのですね。こんなやりとりをちょこちょことして、ダムの決壊にならないように、少しずつの放流になるといいですね。

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 ある決断をしなければならない時に来ている娘に、「どうする?」と投げかけてみました。そのことについての答えは返ってきません。この投げかけをきっかけに、私にクッションを何度も何度も投げつけてきました。怒ったような感じで。投げつけてきたクッションを受け取り、投げ返す。バンバンぶつけてくるクッションを私の体で受け止める。そんなことを繰り返していました。

 「どうしたいの?」また、投げかけてみました。はっきり「嫌だ」と返ってきました。「こんなことが投げかけられると、揺れるよね」と言いました。相変わらず、娘は、クッションをバンバンぶつけてきます。「あっち行けよ」と言います。「行かないよ。行ったらぶつける相手がいなくなるもの」と言って、クッションバンバンにつきあっていました。「どんな気持ちをぶつけているのかなあ・・・」「本当は、こんなものじゃないくらいに暴れたいのかもしれないなぁ・・・」そんなことを思っていました。夫が帰ってきたので、そこで終わりになりました。

 その後、「あっちへ行け」と行っていた娘が、じきにやってきて、少し私に悪態をついた後、私に寄りかかってきたのでした。ほっとしました。嬉しかったです。そのうち、娘の好きなおやつを食べたいと甘えてきて、その商品が売っているコンビにまで一緒に車で出かけました。車の中であつあつを食べました。何度も「おいしい」と言って食べていました。

 怒りを受けとめるのはいつも怖いけど、今日は「なんだか、すごい」って思いました。このやりとりは、自分では、なかなかいい感じだったなあ・・・と思っています。今の自分に無理をすることなく、少し、間をおいてみたりもしながらつきあいました。娘も加減してくれたなと思います。ついつい、「何もせずに、待つ」になりがちな私です。もちろん、苦しさや不安に共感しつつ寄り添ってもらえることは心強いことです。でも、私のチャイルドが騒ぎ出して、なかなかそれもできないでいるのが現実です。チャイルドと仲良くしながら、おとな心で寄り添えるようになることは大きな課題です。

 おとな心の母への修行中です。

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【「痛い」と言って甘えたい】

 あるお母さんからすてきな報告がありました。高校生のお子さんがある日、「歯が痛い」と言ったのだそうです。お子さんはここ数日食欲がなく、雑炊とかゼリーとか水分とかしか摂れていなかったそうで、とりあえず病院に行きました。歯は大丈夫でしたが、ゆっくり休むことになりました。それでもその後も、「歯が痛い」と何回も訴えてきたそうです。ところが、その日の夜、かなり硬いウナギの骨を加工したおつまみみたいなものを、ボリボリとずいぶんたくさん食べていたのだそうです。

 それでお母さんは、「おやっ?」と思い、「午前中までは、歯が痛いと言っていたのに、なんだ、こんな硬いもの食べられるんだ」と、そして、気付いたそうです。「そっかあ・・・。そうやって、私に甘えていたんだ」と。歯が痛いのも嘘ではなかったけれど、「歯が痛い」と言って甘えたかったんですね。お母さんは、「歯が痛い」というので、早く歯の痛みが治るようにと、そのことばかりに心が向いていたそうです。

 それよりも、「歯が痛い」という訴えに、「痛いねぇ」「どこが痛いの?どんなふうに痛いの?」「何なら食べられそう?」・・・と、丁寧につきあってやれたらいいんだなと気付いたそうです。なにか訴えたい気持ちがあるけど直接訴えられなくて、「歯が痛い」という変化球で、訴えたり甘えたりしてきていたんだと気づいたそうです。だからそこでのやりとりを大事にして、本当に訴えたい気持ちも受けとめてあげられたらいいなあと思ったそうです。

 こうして甘えてくる高校生のお子さん、まだまだかわいいね。そしてそんな気づきをしたお母さんすてき! 甘え甘えさせる関係があるよね。それが私はうれしいです。その夜はちょっかいを出してきたので、座布団を投げっこしたりじゃれつき遊びもできたそうです。高校生になってお母さんとじゃれつき遊びができるのは、女の子ということもあると思いますけどね。お母さんは変化球と表現されていますけど、変化球とまでは言えないカーブくらいの球ではないかしら。

 そうなんですよね。何かにこじつけて甘えたい気持ちを表現してくることってよくありますよね。「学校(幼稚園)に行きたくない」「おっぱいやめるのいや」「着替えるのいや」「そんなの食べたくない」「あっちがいいのに」「お母さんがこう言ったからだよ」「お母さん大嫌い」・・・こんなとき、その言葉を真に受けないで、ただ「よしよし」と聞いてあげられたらいいですね。その奥にある気持ちに出会ったらもっといいですね。

 イヤ!って言うけどイヤじゃない、そう言ってただ甘えたいだけ!

【怒りの気持ち】

 小1のお子さんが、いつもはちゃんとついてくるのに、エスカレーターに乗って振り返ったらいなかった。お母さんはあわてて戻って、すぐにお子さんは見つかったのだけれど、お子さんを怒ってしまったと、相談室に着いたときには、まだぷりぷりなさっていました。

 援助者が抱っこして、お母さんの気持ちを聞き、お子さんに語りかけました。「僕が悪い!ごめんなさい!」と代弁すると。反り返って泣き出しました。「ごめんなさい!」というたびに大泣きでした。

 ひとしきり泣いてお子さんが落ち着いたとき、お母さんも和んでいました。そしてお母さんは、そんなに怒ることではなかったという気持ちになっておられたようでした。でもその時はとっさに怒ったお母さん、その心は、「いなくてびっくりした。自分がもっと気をつけていればよかった。うかつだった」でした。お母さんは自分に怒っていたのかもしれません。

 お母さんはにこにこになって、お子さんもにこにこになって終わりになりました。

 怒りを八つ当たりでなく表現するのはほんとに難しい。怒りのうしろにある気持に気づくのも、とっさには難しい。あとから気づけば、こうして和解できるからいいけど、それも難しい時も多い。怒りは付きあいづらい気持ちですね。でもやさしい大好きの気持ちから出ているのは確かなようですよ。

【ちょこっと抱っこ】

 和く輪く舎に遊びに来た知り合いのもうすぐ2歳のお子さん。気にしなければ見逃せる程度なんだけど、なんかちょっと落ち着かない感じでした。遊びに来たんだし、お母さんは抱っこを知っているし、ここで抱っこしなくてもいいかなって思いつつ、お母さんと話したりお子さんと遊んだりしたりしていました。

 ところがだんだんに、ダメというのをまたしたりと、サインを出し始めました。それで、援助者がちょこっと抱っこ。1分くらいかわいくうえ~と泣いてお母さんに。でもまだぴったり抱かれないですぐに膝から降りようとします。それでもう一度2分抱っこして泣きました。その後はお母さんに行ってぴったりと抱かれました。そして行動もしっとりと落ち着きました。

 また少し前には、小2のお子さんが付き添いで来ていました。2時間の相談の間待っていてくれたのですが、だんだんになんか落ち着かなくて、しつっこくなっていました。これもサインですね。そこで援助者が、つかまえようとしたら逃げられて、追いかけてつかまえて、じゃれつきあそびになりました。相手していたのは10分くらいだったと思うのですが、最後には腕の中で落ち着いて終わりにしました。そしたらその後はしっとり落ち着いて、帰るまで静かに本を読んでいました。

 3分と10分の付きあいで、ケバケバしていた気持ちがしっとり落ち着くんですね。あまりにたまっている時はそうはいかないでしょうけれど、ちょっと落ち着かない、ちょっとようすが変とサインを出している時に、ちょこっと抱っこはおすすめです。