安心感が行き交う

【お母さんだから泣いて甘える】
【ここにいるよ~】



【お母さんだから泣いて甘える】

 病院にお見舞いに行くことがあって、その時の出来事です。
 赤ちゃんがお母さんから離れて入院していたようなのです。とてもお利口にしていて、看護師さんからほめられていました。ところがお母さんが面会に来て顔を見るなり泣き出したのです。看護師さんは「あれ、今までお利口だったのに、お母さんが来たらどうしたのでしょう!?」と言いながら離れていきました。

 看護師さんは世の中一般の考え方で言っているので悪気はないのですが、お母さんは看護婦さんの言葉に戸惑ったようすに見えました。そこでお母さんのそばに行って、「お母さん、そうしてお母さんに泣いて甘えられるのはとってもいいことですよ。 お母さんが大好きで信頼しているからですよ。病院で頑張っている分、お母さんが来たら安心して愚痴をこぼせるのです。甘えているのです」と伝えました。

 するとお母さんは「え?わたしに甘えてくれているのですね」と言い、顔がふっとゆるみ、涙がほろほろとこぼれました。そして赤ちゃんを愛おしそうに抱きしめておられました。お母さんと赤ちゃんの気持ちがつながるのを感じました。よかった!

 もう一つはバスの中の出来事です。
 赤ちゃんがベビーカーにのって、その後ろにお母さんが立って、バスに乗っていました。ベビーカーには幌がかかっているので、赤ちゃんはお母さんの姿が見えません。赤ちゃんは目に入るおとなを見回していました。そばにすわっていたおばあちゃん的な人にあやされて、ちょっと笑顔になりそうでしたが、すぐに別の人の方を向いてしまいました。なんだか緊張がましている感じが見て取れました。

 途中の停留所から乗客がいっぱい乗り込んできて、お母さんは押されて、赤ちゃんの前の位置に立つことになりました。お母さんの顔が見えたとたん、赤ちゃんはうえ~ん!とべそをかきました。赤ちゃんはお母さんの姿がずっと(15分くらい)見えなくて不安になっていて、お母さんが見えてほっとして甘え泣き始めたのでした。よかった!と見ていた私です。

 でも赤ちゃんが泣き出したら、お母さんはあわててバックの中からお菓子をとりだし、手に持たせました。赤ちゃんは泣き止んでお菓子を口に入れましたが、でもまたすぐにうえ~ん! お母さんは今度はおもちゃを出して機嫌取り。それでもまだ泣き出したところで、その親子はバスから降りていきました。泣かれることにとても気をつかって、ドキドキしているお母さんの気持ちがその場に残りました。

 このお母さんには、「お母さんだから甘えて泣けたね」と伝えられずに別れてしまって、赤ちゃんからのラブコールのうえ~ん!は、お母さんに届かなかったね。残念!

【ここにいるよ~】

 8か月のSちゃん。お兄ちゃんの相談に連れてこられました。お母さんがお兄ちゃんと抱っこでお話ししている間、下に寝かされて待っていました。とてもおとなしく、いるかいないかわからなくなるほどの存在の仕方でした。あんまり静かにしているので、手の空いていた援助者が抱っこして待つことにしました。ところが抱っこしてみると、とても軽く、援助者の腕の中でも居ないかのような様子をしていました。まるで存在を消しているかのようでした。生まれてからずっとお兄ちゃんが大変だったから、きっと協力して来たのでしょう。でもあまりにも気持ちを一人で抱えている甘え下手さんの様子に、心配になりました。お母さんがまだお兄ちゃんのことでいっぱいいっぱいなので、Sちゃんの心配までさせてしまうのもいけないけれど、後になって苦労なさるのも気になって、少し気にかけてあげてと伝えました。

 2回目に連れてこられたSゃん。何かちょっと様子が違いました。1回目のように下に寝かされていましたが、少しして声が出てきて、ぐずぐずし出したのです。きっとお母さんがSちゃんに気持ちを向けるようにしてくださったのでしょう。せっかくぐずぐず言って甘えようとしているSちゃんなので、前回つきあった援助者が抱っこしました。するとその日は8か月らしい重さを感じ、抱くと少しもじもじしていたけれど、そのうち泣き出したのです。ちょっと喉を詰まらせるような泣き方でしたが、泣いて甘えてくれました。ほっとしました。

 援助者がSちゃんの気持ちを代弁して、「お母さ~ん、お母さ~ん」と呼んでみたり、「抱っこして~」「こっち見て~」「来て来て」などと言っていたのですが、「ここにいるよ~」と言うと、激しく泣いたのです。その言葉が気持ちに一番ぴったりしたのですね。「ここにいるよ~」「ここにいるよ~」という度に深く泣けて、そこでお母さんにバトンタッチ。お母さんの抱っこでかわいい甘え泣きができました。

 帰りの用意におむつ替えをしたときも、いつもはおとなしくさせていたのが、イヤイヤしながらやっていました。ちょっと甘え上手になってよかったです。お母さんにとっては大変になるけど、Sちゃんがひどく甘え下手のまま育っていったら、後になってもっと大変な思いをすることが、相談で多くの親子に付き合っている体験から予想できるので、今できるだけでいいから手をかけてあげてね。