気持ちが分かる



【ただわかってほしかったんだね】

 上のお子さんが赤ちゃんの時によく泣いたりして大変で、相談に来られていたお母さんから、下のお子さん(Aちゃん)とのステキなやりとりの報告を聞きました。

 6か月のAちゃん、少し前から夜寝る前にグズクズが多く、最初はグズリたいのねと見守っていたけれど、段々にひどくなり、抱っこすると突っ張ってのけぞって泣き叫ぶようになってしまったそうです。

 Aちゃんは逆子で,助産師さんが手を尽くしてくれたけど直らなくて、きっとこの体勢が赤ちゃんにとって一番居やすいのでしょうと、それからは赤ちゃんにそのままでいいよと話しかけてきたそうです。そして助産所を選んだお母さんにとっては、病院に移って逆子のままの出産になったことで、心残りはあったけど、自然分娩で生むことができ、生まれてすぐにおっぱいも飲んでもらえて、まずまず満足のお産だったそうです。

 でも、寝グズリがひどくなった時、助産師さんに相談したら、「お腹の中や生まれたときに赤ちゃんも苦しかったし,首も痛かったのかもしれませんね。苦しい気持ちや首のコリを訴えているのではないかしら」と言われたそうです。それで、お母さん自身は満足していたので、Aちゃんの苦しさには気づいてあげられなかったと,自分を責めてしまったといいます。

 そこでお母さんが慰めの抱っこをして,出産の時のことを話してみたそうです。お母さんはAちゃんの苦しさに、今まで気づいてあげられなかった責める気持ちが強かったようで、その苦しさを取り除いてあげなければと、「苦しかったね」「痛かったね」「気づいてあげなくてごめんね」と涙ながらに慰めました。Aちゃんは突っ張って怒り泣きしていたけど、甘え泣きにはなかなかならず、なんだか慰めても、Aちゃんの気持ちとつながらない感じだったそうです。

 そこで阿部の本に書かれていたことを思い出して、「Aちゃんは生まれるとき苦しかったこと,お母さんにわかってほしかったんだね。お母さんわかったよ」「苦しい気持ちをわかってほしかったね。わかったよ」と語りかけたら、突っ張り怒り泣きが、かわいい甘え泣きに変わって、やっと気持ちが通じ合った気がしたそうです。

 お母さんがごめんねしたい気持ちがあるなら伝えたらいいけど、Aちゃんはただ気持ちをわかってくれればそれでよかったんだね。お母さんよくそこに気づいたね。上のお子さんの時に相談に通われていた体験も役立ったね。

 それからのAちゃんは、ひどい寝グズリが落ち着いて、甘え泣きが上手になったと言うことです。

【お風呂をいやがる】

 とくに何を分かってほしいというのでもない。日々のささいなストレスが溜まっているだけ。だから、ただ泣かせてくれればいいの。という場合もよくあります。でも、分かってもらえるものなら、やっぱりあのことを分かってほしいな、という場合も少なくありません。懸命に何かを訴えようとしていますが、言葉で伝えてくれるわけではないので、なかなか分かりません。さあ、どんなふうに言い当てたらいいのでしょう。一つの方法は、

※気がかりな様子がいつから始まったか、
※その頃に何か思い当たることはなかったか、
※それがどうつらかったか、

と振り返ってみる、というものです。実例として、あるお母さんの体験を紹介しましょう。

 1歳7ヶ月の息子は「おふろ大好き!」-のはずでしたが、1週間ほど前、私がカゼで熱を出したのでお父さんに入れてもらった日を境に、大のおふろ嫌いになってしまいました。「おふろよ」の声でべそをかき、無理に入れようとすると、耳をつんざくような声で大暴れです。ふだんは、お父さんとも機嫌良く入浴していたので、その日はたまたま眠くてぐずったかな、くらいに軽く考えていました。ところが、その後もおふろに入れるのが至難のわざになってしまいました。元気になった私が入れようとしても、なのです。
 
 困り果てた私は、「抱っこ法」で解決を試みることにしました。まず、服を脱がそうとするところでぐずりだした息子を横抱きにします。そうすると、おっぱいを欲しがったりもがいたて暴れたりするので、「ちょっとお話しようね」と言い、さらにしっかりと抱き続けます。息子は顔を真っ赤にし、髪を逆立てて泣いています。
「どうしておふろがいやになったの?」
「お父さんと入るのがいやなの?」
「シャワー熱かった?」
「シャンプー沁みた?」
などと思い当たることをどんどん聞いていきます。

 あれこれ話しているうちに、ハッと思い当たり、「去年の……」と言いかけると、息子は「それ!」と言うように、いっそう大きく泣きだしました。ちょうど去年のいまごろ、私は持病の腰痛が悪化して、実家に戻っていました。腰の痛みがひどいときは、息子を入浴させることもできないので、代わりに妹に入れてもらっていたのです。私の実家とはいえ、息子にとってはよその家。母ではないひととの入浴は大きなショックだったようです。そして何より大好きなお母さんの体のことをほんとに心配していたことが分かり、私は思わず「ありがとう!」と泣いてしまいました。
 今年、同じ季節に体調を崩し、おふろに入れてあげられないというよく似た状況で、去年の辛い思い出がよみがえってしまったようです。

「大変だったね。お母さんのことが心配だったね」
などとしばらく慰めるうち、泣き方がおさまってきたのでおっぱいをあげ、二人でおふろに入りました。「抱っこ法」をしているあいだ入浴していた夫は、びっくりするやら感心するやら……。
「母は偉大なのよ」
とゆっくりほほえんだものの、実は私自身、思ったより早く問題が解決したことに驚いていたのでした。「抱っこ法」によって、息子の心の傷を癒すのと同時に、私の人生観も大きく変わったのでした。

気がかりな様子がいつから始まったか=1週間ほど前。

その頃に何か思い当たることはなかったか=母がカゼで熱を出したので父に入浴を頼んだ。

それがどうつらかったか=1年前実家で母が腰痛になったので叔母と入浴したのを思い出したかも。
ということになりますね。簡単でしょう?

 ある3か月の赤ちゃんもまた、それまで嫌がらなかったおふろを嫌がるようになり、「石けんが目に入ったのかな?」という問いかけをしたときに、急に泣き出しました。「石けんが目に入っていたかったね」「気づいてあげられなくてごめんね」「痛かったね。痛かったね」「これからは気をつけるからね。安心していいよ」などと慰めたあとで、またいやがらなくなりました。
 
 でも、いつもこんなふうにうまくいくとはかぎりません。どうしても分からないときには、
「ごめん、ごめん。分かってあげられないよ。でも、何かつらかったということは分かるから聞いてあげるよ」とでも言って、存分に泣いてもらえばよいのです。

【4か月の娘に抱っこ法?】

〈相談者から〉

 はじめまして。私は譲り受ける形でビデオと本を入手させていただき、熟読させていただきました。

 私には4ヶ月になったばかりの娘がおりますが、本を拝見するまでは「泣く=授乳」という対応しか出来ずにいました。私なりに「抱っこ法」を理解したつもりで向き合っていくと、確かに何か訴えたい泣き方があること、は分かったのですが、言わんとしている事が的を得ていないようで、泣きを増発させてしまっているだけに終わってしまっています。

 幸い娘は穏やかな性格のようで、おむつや空腹の時には、「あう、あう」と声をあげて泣かずに呼ぶことが増えてきて、大泣きをするといっても1日1度あるかないか、といったところです。思いつく限りを語りかけて、「違う」と言われているような状態のまま泣きつかれて寝てしまっているようで、どうしても最後は「わかってあげられなくて、ごめんね」としか言えない現状です。

 ホームページを拝見させていただき、講演会があることを知りました。△△での開催はないのでしょうか?
 ビデオのように、直接指導させていただける機会があるのでしたら、場所や料金も含めて教えていただけると幸いです。


〈返事〉

 『心を育てる抱っこ法』のビデオと本をご覧になったのでしょうか。

 4か月ということですから、まだ、抱っこ法というより抱っこのときですね。泣いたときにすぐに行って、まず抱き上げて守られている感覚を伝えて、そしてどうして欲しいのかなと欲求を汲み取って、そして満たしてあげる。育児はそんな繰り返しですよね。そんな繰り返しをしていくうちにだんだんに親子の歯車がうまく回るようになって、だんだんにお母さんは直感が働くようになるのですよね。そんな中で「泣く=授乳」はまだ必要なことも多いと思います。おっぱいは安心も一緒に飲みますからね。泣いたらとりあえずおっぱいを上げてみるのもいいのではないでしょうか。そうしているうちに、おっぱい上げても満足していないなあ、これは訴えたい気持ちもあるのかなあ、と考えてみたらいいです。

 さいわいあなたの家の赤ちゃんは、機嫌のいいときと泣きたいときのメリハリがついているし、自分から1日一回は泣くことがあるのですから、その時に「よしよし」と受けとめて上げたらそれで十分ではないかしら。どんな気持ちを訴えて泣いているのか分かろうとしながら、普通に抱っこで「よしよし」していたらいいのです。気持ちをわかってあげられればいいですが、分からないなら、泣きたい気持ちがあることだけわかってあげて、受けとめてあげれば満足しますよ。いっぱい泣けばいいのではなくて、「泣いて訴えて受けとめられて落ち着く」ということが大事なんです。

 お母さんは、もうすでにそんなやりとりは重ねてこられているのではないかしら。だから泣いて訴えることもあるけど、「あーあー」と声を出したり、目や仕草で訴えることもするようになっていますから、親子の気持ちのやりとりがうまく回っているように感じます。ただ赤ちゃんだって、まわりのおとなに気遣いもしますし、赤ちゃんだから感じる気持ちもありますから、その調整を1日一回の大泣きの時に癒しているのではないでしょうか。抱っこ法なんて構えないで大丈夫のように感じます。

 講演会は今のところ△△では予定がないのですよ。ごめんなさい。また東京でやりますけど。
 それから直接のご指導も、東京まで来ていただくことになります。△△方面からは何人も来てくださっていますが、JR錦糸町駅から徒歩5分ですので、乗り換えなしでいらっしゃっることができる地域ですといいですね。必要になったら声をかけてください。


〈相談者から〉

 こんにちは。以前、娘が4ヶ月の頃メールをしたところ、とてもご丁寧なお便りをいただきながら御礼もせずに失礼いたしました。娘も7ヶ月になりました。

 友人伝いに本・ビデオに触れて「抱っこ法素敵!!やりた~い」という意気込みだけが強すぎて、結局方法にこだわる余り、娘を見失いかけてしまっていたことに気づきました。

 「まだまだ充分に抱っこをする時期」との先生からのお返事に、まずはとにかく抱っこだ~と、逆抱っこグセ(私が抱っこしていたい)になるほど抱きしめて、チュウして、「大好き!大事な子!!」と愛情をたっぷり注いで育てています。

 それから、ホームページを隅から隅までくまなく読んで、「大好き」・・・の本と8年分の『しあわせ子育て通信』を送っていただき、子どもが寝ている間に少しづつ読んでいます。
 通信の中で、みなさんが心をそのままに文章に表し、心の底から愛情があふれているのを感じます。今、娘のことで取り立てて表面化した問題はない(私が見えていないのかもしれませんが)ですが、子育てに自信を持つ意味でも、もっと娘を大好きでいるためにも、育児の真ん中に「抱っこ法」を知れたら素敵だなぁ・・・と思いました。

 そこで、5月の講演会にはぜひ参加したいのです!!