すねる

【「すき」「すきじゃない」のやりとり】

 本を読んで、お母さんが家で実践した報告をいただきました。その中で、日常でのステキな抱っこ法的なやりとりをされていたのでご紹介します。

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 2歳の息子が熱で、外遊びやお買いものにはいけないので、家にいました。ごろごろしながら、なんとなく私が息子に、「だーいすき」と言うと 聞こえないふりをしたので、さらに「だいすき」と言うと、なんと息子は怒ったようにそっぽを向きました。ですので、また「だいすきよ」と言うと、「すきじゃないよー」というので、「だいすき」とさらにいうと、ふざけて「すきじゃないよ」と。

 その「だいすき」「すきじゃない」を何回も何十回も繰り返していました。そのうち、たまらなくなって息子を抱っこしたら、すきじゃないを言うのを止め、ふざけて脱出しようとしたので、 抱っこしようといって、横抱きにして、第2子を出産したときの話をしたり、夫の実家に預かってもらった時の話をしたりしていると、息子が泣きだしました。しくしく泣いているのを見たら、こんなに我慢させていたのかと私まで泣けてきてしまいました。すると、息子が私の涙を拭きながら、「涙拭いて。涙拭いて」と繰り返し言いました。どうしたらいいのか分かりませんでした。

 そして、息子の泣き方が「うわーん」と声を出して泣くようになりました。でも、「(自分で自分に)涙拭いて涙拭いて」「○○ちゃん、だいじょうぶだいじょうぶ」といいながら泣いているのです。

 「大丈夫じゃないんだよね」と私が言いますと、「泣かない、泣かない、大丈夫」と言って歯をくいしばって泣きやもうとしています。「泣き虫の○○ちゃんもだいすきよ」と言うと、 また泣いていましたが、やはり最後には「大丈夫」を繰り返していました。

 泣きやむと、「寝る」といって少し目を開いて「ねなーい」と言って、抱っこのまま眠ってしましました。少し眠ってすっきりした様子で起きてきました。熱もさがりました。
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 お子さんのかわいいスネスネに、とても上手に付き合っているでしょ。こんなふうに付き合ってもらうと、お子さんはとっても満足でしょう。こんなやりとりが日常にあると、スネスネも少しずつ解けて、甘え上手を取り戻していきますからね。

 気持ちよく泣いたら熱が下がっただなんて。そう言えば、ぜんそくやアトピーが改善したなどという話を聞いたこともあります。母の心の中のしこりが少しずつ消えていったら、便秘だった娘がしだいに食べるようになった、「Mさんへ」という体験談もあります。

【ぼく逃げちゃうよ】

 3歳になったEちゃん、普段は聞き分けがよくお利口にしているけど、一旦泣き出すと手がつけられない大泣きになる。なにか我慢していることがあるのでしょうか。楽にしてあげたい、ということで相談に来られました。

 相談室でのようすも、援助者がお母さんと話している間、おもちゃで静かに遊んでいました。話が終わってEちゃんの番になり、お母さんが「おいで~!」と、手を差し伸べて呼んだら、さっさとおもちゃを片づけて、お母さんの方を向きました。あ、お母さんの所に来るかなと見ていると、くるっと後ろ向きになってまたおもちゃを出そうとしました。見え見えにかわいく拗ねたEちゃんでした。

 そこで援助者が迎えに行き、1つ出してしまったおもちゃをしまうように手を添えると、そこから「イヤ~!」と座り込みをして泣き出しました。ここで張り合いをすると大泣きになり、Eちゃんはそれを期待しているようでしたが、初めてのお母さんは戸惑われると思い、お母さんに来てもらって抱っこして移動しました。Eちゃんは泣き止んでお母さんにしがみついていました。

 そのまま座布団に座って横抱っこしたEちゃんは、少しうつむき加減で抱かれていました。顔を見せないのです。顔を見せないのは寂しいからと、お母さんに顔が見えるように誘ってもらいました。するとEちゃんは、今度は首を反り返えさせてそっぽを向きます。反り返りを直そうとすると、今度はお母さんの胸に顔を埋めます。

 そんなかわいい拗ね拗ねのEちゃんだったので、絵本『ぼくにげちゃうよ』を読んでみました。「読んで楽しい癒やしの絵本」でも紹介していますが、子ウサギが「逃げていなくなっちゃうよ」「魚になって逃げちゃうよ」「鳥になって逃げちゃうよ」と母さんウサギに投げかけます。母さんウサギはその一つ一つに「逃がさないよ」と返します。最後は母さんウサギの胸に飛びこんだ子ウサギは、もちろん抱っこで大満足。

 読み終わってEちゃんのやりとりに戻って、「あ、Eちゃんの顔が逃げたな。お母さんは逃がさないよ」「あ、脚が逃げたな。逃がさないよ」「あ、首が逃げたな。逃がさないよ」と、かわいい拗ね拗ねを拾っていきました。しばらく遊びのようにやりとりをしていくと、Eちゃんはうえ~ん!と泣き出しました。お母さんがよしよしできるような、穏やかな泣き方をしばらくして、眠ってしまいました。

 癒やしの抱っこも励ましの抱っこも、かわいい拗ね拗ねを次々繰り広げる子どもたち、お母さんに「逃がさないよ」と付き合ってもらうとうれしいくて、安心をもらい、大好きも伝わるのですよね。それに、逃がさないでつかまえようとすると、イヤイヤしてしまうEちゃんだと、「嫌がっている」と思ってしまうお母さんでしたから、かわいく拗ねて甘えているだけなんだと、伝わったようでした。よかった。

 絵本『ぼくにげちゃうよ』は、マーガレット・ワイズ・ブラウン作、クレメント・ハード絵、岩田 みみ 訳(ほるぷ出版)。
 子うさぎは、どこかへ行ってしまいたくなって、「ぼく逃げちゃうよ」と母さんうさぎに言います。母さんうさぎは、「おまえが逃げたら、母さんは追いかけますよ。だって、おまえはとってもかわいい、私の坊やだもの」と答えます。
「お母さんが追いかけてきたら、ぼくは魚になっちゃうよ」
「おまえが魚になったら、母さんは漁師になって……」
といった問答を繰り返していった末に子うさぎは、「ふうん。だったら、うちにいて、母さんの子どもでいるのとおんなじだね」と納得して逃げ出すのをやめます。
 子うさぎがなぜ出て行きたくなったのかは、はっきり書かれていませんが、これを、すねた子うさぎが追いかけてもらうことでダダをこねたかったんだ、と想定すると、物語全体がとてもリアルな感じを帯びてきます。
「逃げちゃうよ」
「大好きだから逃がさないよ」
というやりとりを、言葉の問答だけでなく、体を使って実際の行動で貫いたら、子どもはもう、うれしくてうれしくて、たまらなくなることでしょう。
 ある相談のなかでこの絵本を読み聞かせたら、小学1年の坊やがすっかり気に入ってしまい、絵本のなかのせりふをもじったやりとりを帰り道にお母さんと楽しんだそうです。